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by Makoto Mochizuki, M.D., Ph.D.


炎症

 もともと「炎症(inflammation)」という名称は、組織が赤く腫脹して熱を持っているので「中が燃えている(in - flame)」という意味にもとづいている。

 「炎症」という状態を、厳密に言葉で定義する、のはなかなか困難なようである。

 *「組織傷害を引き起こしたもともとの原因」と「それにより壊死した細胞や組織」を排除しようとする防衛反応である。
 *生体に器質的変化をもたらした侵襲に対する、生体の総合防御的な意味を持った反応である。
 *刺激に対する生体反応の1つでの型であり、経過を追って変動する現象である。
 *細胞傷害を伴う刺激に対する生体反応であり、血管・細胞・液性因子という3つの要素の変化を伴うものである。
 *傷害性の刺激(有害なもの)に対する組織の反応(防衛反応)である。

など、いろいろと語られており、つまり、そのようなものなのであるが、まあ、「炎症」とは、これから述べるような生体反応のことをいうのである。

 「炎症」でおこる生体反応の過程は以下の様にまとめられる。
1. 傷害因子の認識 2. 白血球(リンパ球)の補給 3. 傷害因子の除去 4. 1-3の炎症反応の制御 5. 消炎(修復)

 「炎症」は、急性炎症と慢性炎症に分けて説明される。

急性炎症:

 外表から認められる急性炎症の徴候(炎症の主徴といわれる)は、「発熱」「発赤」「腫脹」「疼痛」「機能障害」の5つである。

 炎症の5主徴

急性炎症の誘因

 急性炎症の誘因には、感染症、外傷、熱、放射線、薬物、毒物、組織壊死、異物などがある。つまり、急性炎症は、外来微生物や異物に対する直接の防衛反応であり、細胞傷害をおこすものと細胞傷害をおこした後の壊死組織に対する反応である(アポトーシスによる細胞死では炎症はおこりにくい)。

微生物や傷害細胞の認識

 傷害因子を細胞が認識するのに以下のような機構が知られる。

1. 細胞表面の受容体(細胞膜受容体)による微生物や壊死物質の認識
 血管内皮、樹状細胞、白血球などいろいろな細胞にToll-like receptorのfamilyなどいろいろな受容体がある。感知するとこうした細胞が炎症のメディエーターの産生をする。

2. 細胞内受容体(核内受容体)による細胞傷害の認識
 尿酸(DNAの破壊物)、DNA、ATP(ミトコンドリア傷害)、カリウム濃度の低下などで細胞傷害を感知して、細胞の状態を制御する。炎症のメディエーターのなかでも特にIL-1を分泌する。

白血球の補給

急性炎症での主な反応は、1. 血管変化 2.白血球補給 3.白血球の活性化 である

1. 血管変化が最初におこる

 一過性(数秒)の血管収縮がまずおこり、それに続いて血管拡張が起こり、局所血流が増加する(充血となり発赤する)。
 次に、微小血管の透過性の亢進が起こる。これにより、血管内のタンパク質を豊富に含む液体(滲出液)が血管外組織に移動する(浮腫となる)。
 血液の粘度が増し、血流が遅くなる(血行静止がおこる)。

 急性炎症の血管変化

 血管透過性の亢進は、いろいろな起こり方をする。
 1. 内皮細胞収縮により透過性亢進がおこる。これは、種々の化学的メディエーターにより惹起される可逆的過程である。
 2. 内皮細胞障害がおこり、内皮細胞の壊死と剥離がおこる。
 3. 白血球による内皮細胞障害。
 4. タンパク質のトランスサイトーシスが増加することによる。
 5. 新生血管からの漏出。

 リンパ管が反応し、リンパ流が増加する。それにより、2次的な炎症反応の波及がおこる。

2. 次に白血球の補給がおこる

急性炎症には主に好中球と単球(マクロファージ・組織球)が関与する。

白血球の補給は以下のようにおこなわれる。
1. 血行静止
2. 白血球が血管内皮表面に沿って集積し始める
3. 白血球が内皮細胞とゆるく接着する
4. ゆるい接着なので血流におされて白血球が回転する
5. 強固な癒着がおこる
6. 白血球が血管内皮細胞間を通って血管外に遊走する

 好中球、単球の遊走までのまとめ

1-2. 血行静止の状態になると、好中球は血管腔の辺縁に集積するようになる(辺縁趨向(へんえんすうこう) margination)。

3-4. 好中球は辺縁趨向すると、まず内皮細胞へゆるく接着する。接着がゆるいので血管壁に沿って回転する。
 組織球、マスト細胞、血管内皮細胞は、微生物や壊死組織に遭遇すると、TNF、IL-1まどいろいろなケモカインを分泌する。TNFとIL-1は炎症に隣接する微小血管に働き、いろいろな接着因子の発現を誘導する。1-2時間のうちに内皮細胞にはE-selectinの発現とL-selectionリガンド(Sialyl-Lewis X/PNAd on GLYCAM-1, CD34, MAdCAM-1等)の発現が始まる。また、ヒスタミンやスロンビンのような他のメディエーターの刺激がP-selectionを細胞質のWeibel-Palade body内の蓄積から血管内皮細胞の表面に再配布させる。
 白血球は、L-selectinを細胞突起の先端に発現し、E-selectinリガンド(Sialyl-Lewis X(e.g.,CLA) on glycoproteins)とP-selectinリガンド(Sialyl-Lewis X on PSGL-1(P-selectin glycoprotein ligand-1), ほかのglycoproteins)を発現する。
 P-, E-, L-selectinによる結合で好中球・単球は血管内皮細胞にゆるく結合する。これらの結合はゆるい結合なので、付いては離れ、離れては付き、その結果、流れの中で白血球は回転して流れていく。

5. 好中球と内皮細胞が接着すると、さらに強固な接着が起こる。これは、白血球表面のインテグリンと呼ばれるタンパク質のファミリーで制御される。
 TNFとIL-1は血管内皮細胞表面のインテグリン・リガンドの発現を誘導する。発現されるインテグリン・リガンドは主に、vascular cell adhesion molecule 1 (VCAM-1, β1インテグリンVLA-4のリガンド)とintercellular adhesion molecule-1 (ICAM-1, β1インテグリンLFA-1のリガンド) である。
 炎症部からのいろいろなケモカインによって、回転する白血球の表面のインテグリンが高親和の状態に変換される。血管内皮細胞表面のインテグリン・リガンドの発現と、白血球表面のインテグリンの親和性の亢進によって、血管内皮細胞と白血球は固く結合する。
 白血球は回転をやめる。

6. 強固に接着した好中球は、血管壁を通り抜けて血管外に遊出する。血管内皮細胞間への白血球の移動には、platelet endothelial cell adhesion molecule(PECAM-1, CD31とも呼ばれる)が深く関係している。PECAM-1は血管内皮細胞と白血球の表面に存在し、両者の相互作用(同一分子間接着)が重要な役割を果たす。
 その後、白血球は、基底膜を通過して血管外に出る(たぶん膠原線維を分解する酵素(コラゲナーゼ)を分泌する)。

 好中球、単球の趨向

 [ 白血球の辺縁趨向・回転。遊走の動画はこちら ]

 血管外に遊出した好中球は、走化性刺激に向かって間質組織内を遊走する。種々の白血球走化性因子の濃度勾配に沿って遊走する。白血球遊走因子とは、1)細菌の産生物 2)サイトカイン(主にケモカインとよばれるもの) 3) 補体系成分(特にC5b)4) リポキシゲナーゼ経路のアラギドン酸代謝産物(特にロイコトリエンB4)などである。
 白血球遊走因子が、白血球の7回膜貫通型受容体(Gタンパク質共役型受容体)を刺激する。その結果として、白血球の細胞質内のアクチンとミオシンの相互作用をひきおこして、細胞が移動する。

 好中球、単球の遊走

 単球でも、以上のような補給はほぼ同様に起こる。

 急性炎症がおこってから、最初の6-24時間は好中球が大部分を占める。24~48時間後に好中球は単球と入れ替わる。
 好中球のほうが、単球に比べて、早期に出て、数が多く、ケモカインに迅速に反応し、血管内皮細胞に接着しやすい。しかし、好中球は血管外に出た後、24~48時間でapoptosisをおこし消失する(長く生きない)。
 単球の寿命は長い。

 好中球、単球の入れ替わり

3. 白血球(好中球・単球)が活性化する

 白血球表面のいろいろなレセプター(Toll-likeレセプター、サイトカインレセプター、食細胞レセプター、7回膜貫通型レセプター(Gタンパク質共役型レセプター)など)が、微生物や壊死物質の成分やいろいろなメディエーターを認識して、白血球の活性化がおこる。

 白血球のレセプター

 活性化された白血球はいろいろな活動をする。粒子を貪食すること、貪食した微生物を破壊すること、壊死組織を除去したりする物質を産生すること、炎症反応を増幅するメディエーターを産生すること、などの活動をする。
 細菌などを破壊する一番重要な機能は「貪食」である。

白血球の貪食過程:
(1) 貪食白血球による粒子の認識と結合がおこる。
 白血球の表面にある特異的レセプター(食細胞レセプター)に微生物や壊死物質の成分が結合することで、白血球はこれらを認識する。食細胞レセプターにはマンノース受容体、マクロファージ・スカベンジャー受容体、マクロファージ・インテグリン(Mac-1)などがある。マンノースは細菌の表面によくある糖類で、人には存在しないためマンノース受容体で細菌の認識が可能となる。スカベンジャー受容体とは、変性低比重リポタンパク(low density lipoprotein, LDL)をリガンドとする受容体ファミリーの総称で、変性したLDLのみならず、様々な変性蛋白、細菌から放出されるエンドトキシンなどとも結合する。
 その他、微生物の表面に付着する抗体(IgGなど)、補体タンパク質C3の分解産物、コレクチン(血漿中の糖鎖結合性レクチン)などの人体(宿主)由来のタンパク質を認識する受容体が存在する。白血球が認識する人体(宿主)由来タンパク質をオプソニン(opsonin)という。

(2) 飲み込みとファゴゾーム(貪食空胞)の形成がおこる。

(3) ファゴゾームがリソソームと融合する(ファゴリソソームと呼ばれる)。

(4) 取り込まれた物質の殺菌と分解が行われる。
 ファゴゾームとリソソームの融合した腔内(ファゴリソソーム内)には、いろいろな殺菌の仕組みやいろいろな酵素が含まれる。活性酸素種、リソソーム酵素などが、ファゴリソソームの空胞内で貪食物を処理する。好中球は、アズール顆粒と呼ばれるリソソームを持ち、これには殺菌力の強いミエロペルオキシダーゼ(MPO)が含まれる。

 白血球貪食

 [ マクロファージによる貪食の動画 ]

 [ 好中球による貪食の動画 ]

貪食以外の活性化白血球の働き:

(1) 炎症反応を増幅するメディエーターの産生放出

(2) 殺菌物質や分解酵素を細胞外に放出
 放出された殺菌酵素や分解酵素は、感染微生物だけでなく、周囲の人体組織も区別なく傷害する。白血球による周囲の人体組織の傷害がおこることとなる。

(3) 好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps:NETs)
 好中球は、自身のクロマチン(DNA, ヒストンなど)を細胞外へ放出してネット状の構造を形成して細菌を絡めとることがあり、好中球細胞外トラップと呼ばれる。

 好中球細胞外トラップ

急性炎症の形態パターン

 急性炎症は、上記のように進行するが、いつもまったく同じように進行するわけではなく、いろいろな状態をしめす。これらを形態的に下記のように分類する。

漿液性炎症:滲出液による浮腫が目立つ炎症のこと。
線維素性炎症:線維素(フィブリン)の沈着が目立つ炎症のこと。
化膿性炎症:膿(組織の壊死や好中球の集合よりなるもの)が目立つ炎症のこと。
膿瘍:限局性結節状に膿(組織の壊死や好中球の集合)が集積すること。結節中央の組織は完全に破壊されている。
潰瘍:臓器や組織表面が限局的に欠損すること。
出血性炎:出血が目立つ炎症のこと。

 その他、下記のような分類もされる。
壊疽性炎:壊死組織や滲出液に2次的に感染(特に腐敗菌感染)が加わった炎症。腐敗性炎ともいう。
増殖性炎:修復反応が目立つ炎症。慢性炎症で。
肉芽腫性炎:類上皮細胞肉芽腫の形成がみられる炎症。

膿瘍(矢印)。皮膚の真皮内に好中球の集合(背景組織は消失している)が見られる。
 膿瘍
 膿瘍

炎症の化学メディエーター

 炎症の場で働く細胞は、化学メディエーターと呼ばれるさまざまな物質によって、その活動を制御されている。化学メディエーターは、炎症部位にいる細胞により局所的に産生されることもあれば、血漿に含まれ全身を循環している場合もある。ほとんどのメディエーターは標的細胞上の特異的レセプターに結合することにより効果を発揮する。メディエーターは標的細胞を刺激し、二次的な機能分子を放出させる。ほとんどのメディエーターの機能は厳密に制御されている。

 細胞由来のメディエーターには以下のようなものがある。
 血管作動性アミン(ヒスタミン、セロトニン)、アラキドン酸代謝物質(プロスタグランジン、ロイコトリエン)、血小板活性化因子(PAF)、サイトカイン(Tumor necrotic factor (TNF)、インターロイキン-1 (IL-1))、活性酵素種、一酸化窒素、リソソーム酵素。

 血漿由来メディエーターには以下のようなものがある。
 補体、凝固因子、キニン。

   

慢性炎症

 慢性炎症は、数週間から数年の長期に及ぶ炎症のことである。

 慢性炎症は、
(1) 活動性炎症(単球主体、免疫反応が加わりリンパ球が浸潤する)
(2) 組織傷害(炎症に関連した細胞の産生する因子などにより引き起こされる組織破壊)
(3) 治癒(新生血管の増生および線維化を伴う組織修復)
 が同時に進行する状態である。
 免疫反応、治癒、組織修復については別項で解説する。

 慢性炎症の原因になるものは、除去困難な微生物の持続感染(梅毒、C型肝炎ウィルスなど)や、過敏性疾患(自己免疫疾患、アレルギー疾患)や、潜在性毒性物質への長期暴露、などである。

慢性炎症は下図のように急性炎症から進展し、消炎、修復する

 炎症の転帰

 慢性炎症に関与する細胞は、マクロファージ(=単球、組織球)、リンパ球、形質細胞(免疫反応に関与する)、好酸球(寄生虫感染やIgE依存性の免疫反応に関与する)、肥満細胞(IgE依存性の免疫反応に関与する)、などである。
 好中球浸潤は急性炎症の典型的特徴であるが、多くの種類の慢性炎症では、微生物や壊死物質が存続するため、あるいはマクロファージの産生するメディエーターのため、好中球浸潤が持続することが多い。

炎症の全身に及ぼす影響

 身体の局所に炎症がおこった時に、全身にいろいろな影響を与える。

 発熱、急性期タンパク質(C反応性タンパク質:CRP)の血漿濃度上昇、白血球数増加、心拍数増加、血圧上昇、発汗減少、ふるえ、悪寒、食欲不振、傾眠、倦怠感などである。

 細菌が血中にはいり全身感染症をおこす(敗血症)と、敗血症性ショック、播種性血管内凝固症候群(DIC)がおこることがある。ショックは循環障害の項目で、DICは血液疾患の項目で解説される。

[2020.4.]


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