Website of Pathology
by Makoto Mochizuki, M.D., Ph.D.
細胞や組織が正常に機能するためには、血液が正常に体内を循環することが必要である。血液が循環することで、細胞や組織に酸素が供給され、老廃物が除去され、体液の恒常性(homeostasis)が保たれる。
体脂肪を除いた体重の約60%は水分である。体内の水分の2/3は細胞内に存在する。細胞外液(残り1/3)の約80%が間質液として存在する。細胞外液の約20%、全水分の約5~7%が血漿(血液の液体成分)として存在する。
血液の55%が血漿成分である(45%は赤血球、白血球である)。
「浮腫」とは、血管外の間質組織間隙における水分の増加のことを言う。
「漏出液(transudate)」とは、タンパク質濃度が低い水分である。血管静脈圧と血漿膠質浸透圧力のアンバランスによって間質組織間隙に増加する水分である。
「滲出液(exudate)」とは、タンパク質濃度が高い水分である。血管透過性亢進の結果(炎症の時など)に血管外に移動する水分である。
胸腔に溜まった水分を「胸水(hydrothrax)」、心嚢腔に溜まった水分を「心嚢水(hydropericardium)」、腹腔内に溜まったものを「腹水(ascites)」という。
血管内腔と間質組織間隙との水分の移動は、血管静脈圧と血漿膠質浸透圧という逆向きの力で調節されている。毛細血管静水圧上昇で水分は血管外へ移動する。血漿膠質浸透圧上昇で水分は血管内へ移動する。
正常では、末梢細動脈で水分は間質組織間隙に流出し、末梢細静脈で血管腔内へ水分が流入している。少量の余分な水分がリンパ管により排出されている。
血管静脈圧の亢進や、血漿膠質浸透圧低下によって、バランスが崩れ、間質組織間隙に漏出液が大量に流出すると、水分が間質組織間隙に貯留して浮腫となる。
静脈圧の亢進の原因には、静脈の還流障害、心不全がある。
血漿膠質浸透圧は主にアルブミン(タンパク質)の濃度によって生じる。つまり、アルブミン喪失(ネフローゼ症候群など)、アルブミン合成低下(肝臓の障害、タンパク質栄養障害など)などが原因で、血漿膠質浸透圧低下がおこり浮腫となる。
リンパ管閉塞によって、リンパ管からの排出が低下すると、浮腫になる。
リンパ管閉塞は原因でおこる浮腫を、「リンパ浮腫(lymphedema)」と呼ぶ。通常限局性の浮腫となる。
ナトリウム貯留は全身性の浮腫の原因となる。
ナトリウムが貯留すると水が貯留するため全身の循環血液量が増加し、静脈圧が上昇と血漿膠質浸透圧低下がおこり、全身性の浮腫となる。
臓器に浮腫がおこると、以下のような病態となる。
皮下浮腫: 皮下に浮腫がおこ、皮膚の隆起と腫脹がみられる。
肺水腫: 肺胞腔内に漏出液が溜まり、呼吸困難に陥る。肺重量は増す。
脳浮腫:脳に浮腫がおこると、脳が腫脹する。腫脹した脳が頭蓋内に納まりきれなくなった場合、脳は大後頭孔からはみ出て、脳ヘルニアとなる。
浸出液による浮腫については炎症の項目で説明する。
「充血」とは、細動脈拡張により組織血流が増加し、動脈血が満ちる状態のこと。充血した部位は紅潮する。
「うっ血」とは、組織からの静脈還流量の低下により生じる血液が満ちる状態のこと。うっ血した部位は暗赤色調となる。一般に、静水圧が上昇するため、浮腫が同時に起こる。
「出血」とは血液が血管外に流出すること。
「血腫(hematoma)」とは、出血によりできた組織内での血液の塊のこと。
「血胸(hemothrax)」とは、出血によりおこった胸腔内への大量の血液貯留をいう。腹腔内への大量の血液貯留は血腹と言わずに「大量の腹腔内出血」という。
総血液量の20%が急速に出血しても、またそれより大量でもゆっくりとした出血ならば健常成人に対する影響はほとんどない。
成人男子(約60kg)の総血液量の20%は、約1リットル。
急速な大量の出血はショック(全身の循環不全)をおこすことがある。
総血液量の50%を失うと死に至るとされる。
成人男子(約60kg)の総血液量の50%は約2.5リットル。
アスファルト上では、200 mlの出血は直径50 cm程度に拡がり、500 mlでは直径約1 mに拡がります。
正常な止血についての詳細な説明は省くが、下記のような事項がある。
(1) 内皮細胞は正常では血液凝固抑制に働くが、活性化されて血液凝固促進能を示す。
(2) 血小板により血液凝固がおこる
(3) 凝固因子により血液凝固がおこる
「血栓(thrombus)」とは、血管腔内の凝血塊のことである。
血栓形成(血管腔内で血液凝固が起こること)に影響する要素が主に3つある(ウィルヒョーの三要素)。
(1) 内皮細胞障害。
(2) 血行静止あるいは乱流。
(3) 血液凝固能亢進。
形成された血栓(血管内の凝血塊)は以下のように経過していく。
(1) 伸展(血管中を血栓が大きくなっていく)
(2) 塞栓形成(血栓が遊離し血管系のほかの場所に運ばれる)
(3) 溶解(線維素溶解作用により取り除かれる)
(4) 器質化と再疎通(血栓が線維化に陥る、そして線維化内に内腔が再び形成される)
「塞栓(embolus)」とは、固体、液体あるいは気体からなる血管内遊離物で、血流により産生部位から離れたところに運ばれる。
肺血栓塞栓症 (下肢の静脈にできた静脈血栓が、肺動脈に運ばれる。肺での酸素交換ができなくなり呼吸困難がおこる)
全身性血栓塞栓症 (心臓内の壁在血栓が全身に運ばれる。全身のいろいろな臓器の動脈に血栓がつまり、血流障害をおこす)
脂肪塞栓症 (骨折など外傷後に脂肪滴が、いろいろな部位に運ばれる。動脈に脂肪組織片がつまり、血流障害をおこす)
空気塞栓症 (気泡が血管閉塞を引き起こす。誤って空気を注射するとおきる(医療事故)。水中など高圧環境で作業する者が急に低圧環境(水上や地上)に戻ったとき,血液に溶け込んだ窒素が気泡化しておこる(潜函病・潜水病という)。100mlの気体が血管内入ると症状がでる)
羊水塞栓症 (分娩時に羊水が母体循環に入るとおこる。低血圧性ショックを起こす)
コレステロール塞栓 (大動脈の粥状硬化症の粥腫からコレステロール結晶が全身に運ばれる。全身のいろいろな臓器の動脈に血栓がつまり、血流障害をおこす)
細菌塞栓症(敗血症性塞栓症) (細菌が血流に乗って移動し、いろいろな臓器に感染巣をつくる)
「梗塞」とは、虚血性壊死を起こすことである。動脈血の供給(あるいは静脈血の排出)が遮断され、低酸素により細胞が壊死に陥るのである。大部分が動脈閉塞によって起こる。梗塞をおこす動脈閉塞の原因の大部分は血栓症や塞栓症である。梗塞に陥った領域を「梗塞巣」という。
梗塞巣でも組織壊死に対する炎症がおきるが、そもそも血流がないため、浮腫や白血球の供給は梗塞巣の辺縁から徐々におこり、中央部にはなかなか炎症は及ばない。
「ショック」とは、原因にかかわらず全身の血流低下が引き起こされた状態のことをいう。低血圧、組織還流障害、細胞の低酸素状態が引き起こされる。
「ショック」はいろいろな原因で起こるが、主に、心原性、低容量性、敗血症性(エンドトキシン性)の3つの原因が重要である。そのほかにも、神経原性、アナフィラキシー性がある。
心原性: 心臓の血液拍出量の低下が原因で全身の血流低下が起こった場合。
低容量性: 血液や血漿の大量な減少が原因で全身の血流低下が起こった場合。
敗血症性(エンドトキシン性): 下記
神経原性: 脳や脊髄の急性傷害による全身の血管拡張が原因で全身の血流低下が起こった場合。
アナフィラキシー性: I型過敏症が全身性に高度におこったことが原因で全身の血流低下が起こった場合。免疫・過敏症の項目で解説される。
[2020.4.]
[戻る]