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by Makoto Mochizuki, M.D., Ph.D.


免疫

自然免疫と獲得免疫

微生物や異物に対する人体の防衛反応には、自然免疫と獲得免疫の2つのタイプがある。

自然免疫

 以下のような非特異的な防衛反応を自然免疫と呼ぶ。

1. 皮膚、消化管、呼吸器など外表に曝される「上皮」が体内への侵入を防いでいる。

2. 貪食細胞(好中球、単球)や血漿タンパク質(補体など)が関与した急性炎症の反応。
 好中球、単球、マクロファージは、特定の分子を認識するのでなく、ある一群の分子をパターン認識受容体で認識する。  細胞膜表面に発現している受容体として、TLR (Toll-like receptor, Toll様受容体)やCLR (C-type lectin Receptor, C型レクチン受容体)などがある。細胞質にある受容体としては、NLR (NOD-like receptor)やRLR (RIG-I-like receptor)などがある。

 非特異的受容体

 ヒトでは10種類のToll様受容体(Tall-like receptor, TLR)が知られており、それぞれが認識する分子とそれに対応する感染病原体の成分(ヒトには存在しないもの)は下記の様である。
 
 TLR1 トリアシルリポタンパク質(病原体の膜成分)
 TLR2 トリアシルリポタンパク質(病原体の膜成分)、ペプチドグリカン(グラム陽性菌)、βグリカン(真菌の多糖類)
 TLR3 二本鎖RNA(二本鎖RNAウィルス)
 TLR4 リポ多糖(グラム陰性桿菌の細胞膜)
 TLR5 フラジェリン(細菌の鞭毛タンパク質)
 TLR6 シアシルリポタンパク質(病原体の膜成分)
 TLR7 一本鎖RNA(一本鎖RNAウィルス)
 TLR8 一本鎖RNA(一本鎖RNAウィルス)
 TLR9 メチル化されていないDNAのCG配列(CpG)(ウィルスDNA・細菌DNA)
 TLR10 不明
 
 C型レクチン受容体(CLR)の中で、DC-SIGN (dendritic cell-specific ICAM-3 grabbing non-integrin)やマンノース受容体(MR)などいくつかのものは、種々の病原体を認識し、外来異物の捕捉のための受容体として機能する。

3. NK細胞は、感染細胞や腫瘍細胞をアポトーシスに陥らせる作用と、INFγを分泌してマクロファージを活性化させる作用を持つリンパ球の一種であるが、免疫グロブリンもT細胞受容体も発現しておらず、非特異的に反応すると考えられる。

獲得免疫(免疫反応)

 獲得免疫のことを、通常、「免疫系」とか「免疫反応」と呼ぶ。自然免疫よりさらに強力な防衛反応である。侵入したものを「特異的に認識して」防御を行うのが特徴である。リンパ球(Tリンパ球とBリンパ球など)とリンパ球の生産物が、獲得免疫の反応の中心である。

 以下、獲得免疫を「免疫反応」として解説する。

正常の免疫反応

 ひとつのリンパ球(Tリンパ球、Bリンパ球)の表面に発現している受容体は、ある一種類の「抗原 antigen」にしか結合しない。しかし、全リンパ球(10の12乗の個数ある)でみると、人体は無数の抗原を認識できることになる。

 体内には、遺伝子再構成によって特定抗原を認識するナイーブなリンパ球(Tリンパ球、Bリンパ球)が多数産生されている。ナイーブなリンパ球は、自分が認識できるある特定の抗原を認識すると、増殖し、機能する細胞に分化し、その抗原をもつ侵入物に対して防衛反応をおこす。侵入物を駆逐した後、その特定な抗原を認識する機能する細胞の一部は記憶リンパ球として体内に残る。

 この特定の抗原の2回目の侵入からは、記憶リンパ球(機能するリンパ球)があるため、迅速かつ効率的に防衛反応を起こすことができるようになる。
 予防接種は、記憶リンパ球の生成が重要な目的である。

 体内にはナイーブなリンパ球と記憶リンパ球が存在するが、記憶リンパ球のほうがより大量に存在する。

 免疫反応には、ナイーブなリンパ球が反応する一次免疫反応と、記憶リンパ球が反応する二次免疫反応がある。

一次免疫反応

 ナイーブ・リンパ球の反応

 T細胞は胸腺で成熟する。この時、遺伝子再構成がおこって多様なT細胞受容体(T cell recepter:TCR)を持つものが存在するようになる。成熟したナイーブなT細胞は、リンパ節に移動する。リンパ節で、炎症の場からやってきた抗原提示細胞から抗原提示を受ける。特定抗原反応性T細胞が選ばれ、増殖し、エフェクターT(機能T細胞)に変化し、機能する。 消炎後、一部のエフェクターT細胞は記憶T細胞として残存する。

 B細胞は骨髄で成熟する。この時、免疫グロブリンの遺伝子再構成がおこり多彩な受容体をもつ。成熟したナイーブなB細胞は、リンパ節で、細胞表面のIgM(IgD)で抗原を認識すると、ヘルパーTの補助を受けて形質細胞に分化する。最初はIgMを産生する形質細胞が出現するが、クラスチェンジがおこって、順次IgG, IgEを産生する形質細胞が出現する。同時に体細胞高頻度変異(遺伝子の再構成)がおこって抗原に対する特異性がさらに増す。消炎後、一部の成熟B細胞は、細胞表面に特異性の高いIgGをもつ形で記憶B細胞として残存する。

二次免疫反応

 ナイーブなリンパ球に比して、記憶リンパ球は素早く強力に反応する。記憶リンパ球の方が数が多く、多くの抗原に反応できる体制が整っている。

   一次・二次免疫反応の比較

正常な免疫反応の概要

 免疫反応

Bリンパ球の働き(液性免疫)

 Bリンパ球が関与する免疫反応を「液性免疫」という。
 Bリンパ球は形質細胞となって、特定の「抗原 antigen」に付着する特定の「抗体 antibody」を産生して、免疫反応に関与する。
 抗体は特定の抗原(タンパク質など)に付着する。
 抗体が細菌表面の抗原に付着すると・・
1) 補体と共同して細菌を傷害する(直接傷害性)。
2) 抗体を目印にマクロファージが細菌を貪食して処理する(オプソニン作用)。

 「抗体」にはいくつか種類がある。
IgM: いくつかの免疫グロブリンがジスルフィド結合でつながって多量体を形成している。五量体が多いが六量体のものもある。多量体であるため、親和力が大きく、補体活性が高い。感染の初期に発現する。
IgG: ヒトの免疫グロブリンの中では最も数の多いものである。IgG1~IgG4まで4つのサブタイプがある。
IgA: 粘膜の免疫反応の主体である。二量体を作ることが多い。IgA1とIgA2の2つのサブタイプがある。
IgD:扁桃付近で働く特殊なもの。
IgE:I型過敏症などで働く特殊なもの。

 抗体は糖タンパク質である。
 H鎖(heavy chain)2本とL鎖(light chain)2本で構成される。
 H鎖とL鎖にはそれぞれ可変領域(V領域, variable region)と定常領域(C領域, constant region)がある。Fabフラグメント(fragment antigen binding, 抗原結合性フラグメント, Fab領域)2本とFcフラグメント(fragment crystallizable, 結晶性フラグメント, Fc領域)1本から構成されるともいえる。
 L鎖は、κ鎖(kappa chain)とλ鎖(lambda chain)の2つのアイソタイプがある。
 H鎖は、C領域の違いで5つのクラスに分類される。IgG(γ鎖), IgM(μ鎖), IgD(δ鎖), IgA(α鎖), IgE(ε鎖)。

 抗体の構造

 2本のFabの間で抗原(赤玉)を認識する

Tリンパ球の働き(細胞性免疫)

 Tリンパ球が関与する免疫反応を「細胞性免疫」という。
 Tリンパ球には、主に、ヘルパーTリンパ球(CD4を表面に持つ)と、細胞障害性Tリンパ球(CD8を表面に持つ)がある。その他、自然免疫に分類されるNK細胞(CD56+)がTリンパ球に含まれる。

 ヘルパーTリンパ球は、サイトカインを分泌して、炎症を維持・増強する。何種類かに分類される。
 TH1(INFγを分泌する通常の炎症で働く)
 TH2(蠕虫感染、I型過敏症で働く特殊なもの)
 TH17(IL-17を分泌する特殊なもの)
 THF(B細胞の分化・抗体産生の制御)
 Treg(免疫応答の抑制的制御)

 細胞傷害性Tリンパ球は、ウィルス感染細胞などをアポトーシスで殺す働きをする。

過敏症

 免疫反応が「異常に過剰に」おこる病的状態を過敏症と呼ぶ。主に4つに分けて説明する(クームスの分類 I型~IV型)。
 I型(即時型・アレルギー反応):TH2, IgE, マスト細胞, 好酸球が関与する
 II型(抗体介在型):異常な抗体が産生されることによる
 III型(免疫複合体型):血中に異常な免疫複合体が形成される
 IV型(遅延型):Tリンパ球の異常な反応

I型(即時型)

 ヘルパーTリンパ球(TH2), IgE, マスト細胞(肥満細胞), 好酸球が関与する反応である。
 正常では、蠕虫感染の時の防衛反応である。いくつかの蛇毒に対する防衛反応でもある。
 この反応が、本来反応しない外来抗原に対して異常に過剰に反応して病気をおこす。
 アレルギー反応と呼ばれる。
 外来抗原のことをアレルゲンという。

 アレルギー性鼻炎、気管支喘息、蕁麻疹(じんましん)、アトピー性皮膚炎、湿疹、食物アレルギー、アナフィラキシー・ショックなどの病気がI型過敏症でおこる。

 蠕虫に対しては、微生物を対象とした通常の免疫反応(TH1が関与する)は役にたたない。蠕虫は大きいので白血球が貪食できず、 IgGが役に立たないのである。

蟯虫に対する正常な免疫反応

 蠕虫に対する免疫反応は、まず最初に、外来抗原によってTH2(CD4+ヘルパーT細胞のひとつのサブセット)の活性化がおこる。TH2は、IL-13(上皮細胞を増殖させ、粘液産生を増加させる)、IL-5(好酸球を遊走、活性化する)、IL-4(B細胞のIgE産生を促進する)、IL-3とIL-9(いずれもマスト細胞を遊走させる)を産生する。
 TH2の応答によって、IgE高値、血中の好酸球数の増加、組織でのマスト細胞数の増加がおこる。
 マスト細胞と活性化好酸球の表面にはFcεRI受容体が発現している。FcεRI受容体にはIgEのFc部が結合する。形質細胞から分泌されたIgEはFcεRI受容体をもつ細胞の表面に素早く結合する。この結合は非常に強く、一度結合したら解離しない。IgEの結合したマスト細胞を「感作されたマスト細胞」と呼ぶ。
 産生されたIgEは、可溶性の抗体として抗原と結合する機能を持たず、抗原に対するマスト細胞、好酸球の表面受容体として機能する。

 マスト細胞の活性化

 マスト細胞の表面のIgEに外来抗原が結合し2個が架橋することで、マスト細胞の脱顆粒がおこる。顆粒内の物質のおもなものは、ヒスタミン(血管透過性亢進、平滑筋攣縮、粘液分泌亢進を起こす)、中性プロテアーゼ、TNFαであり、その他に、プロスタグランジンD2、ロイコトリエン(B4、C4、D4)なども顆粒外に別に産生され分泌される。
 活性化好酸球でも、表面のIgEに外来抗原が結合し2個が架橋することで、好酸球は毒性物質を分泌して蠕虫を傷害できる。これらは蠕虫の近傍から分泌されることとなる。

 蠕虫に対する好酸球

 特定の外来抗原に反応するIgEを表面にもつ感作されたマスト細胞は、反応が終息した後も付近に残存している。好酸球は寿命が短いので残存しない。
 2回目以降の外来抗原侵入時には、肥満細胞の反応が迅速かつ効率的におこる。数分のうちのおこる。
「即時型」という所以である。

 こうした蠕虫などに対応する免疫反応が、本来反応してはいけない抗原(タンパク質)に感作されて、感作されたマスト細胞が出来てしまい、異常に反応してしまうのがI型過敏症である。

I型過敏症での反応

 まず、外来抗原による、TH2(CD4ヘルパーT細胞のひとつのサブセット)の活性化がおこる。TH2が産生したIL-4は、Bリンパ球を活性化し、Bリンパ球のIgEクラススイッチを経て外来抗原に対して特異的なIgEを分泌させる。TH2が産生したIL-5は好酸球を活性化させ、IL-13は上皮細胞に働いて粘液分泌を亢進させる。マスト細胞表面のFceRI受容体にIgEが結合する。IgEが結合したマスト細胞を「感作されたマスト細胞」と呼ぶ。好塩基球、好酸球もFceRI受容体を持つ。感作されたマスト細胞の表面のIgEに外来抗原が結合し2個が架橋することで、マスト細胞の中で一連の生化学的シグナルが誘発される。肥満細胞からプロスタグランジンD2(気管支攣縮、粘液分泌増加)、ロイコトリエンC4とロイコトリエンD4(血管透過性亢進、気管支平滑筋収縮作動)、ロイコトリエンB4(好中球、好酸球、単球に対して走化性を持つ)などが分泌される。マスト細胞からは、その他いろいろなサイトカインも分泌される。
 特定の外来抗原に反応するIgEを表面にもつ感作されたマスト細胞は、反応が終息した後も付近に残存しており、2回目以降の外来抗原侵入時には、肥満細胞の反応が迅速かつ効率的におこる。

 反応が高度で全身に及んだ場合には、全身の血管拡張などによる循環不全・血圧低下をおこす。これを全身性アナフィラキシーとかアナフィラキシーショックと呼ぶ。

 I型過敏症
 I型過敏症

II型(抗体介在型)

 自己の細胞や組織構造に対して特異的な抗体ができる病態。
 できた抗体の反応の仕方によっていくつかの病態をしめす。

(1) オプソニン作用や貪食作用などによって抗体が付着した細胞が壊されてしまう。
 自己免疫性溶血性貧血、特発性血小板減少性紫斑病がこうした機序でおこっている。

 II型過敏症-1

(2) 細胞や組織構造に抗体が沈着して炎症反応をおこす
 グッドパスチャー症候群(抗基底膜抗体ができる)や天疱瘡がこうした機序でおこっている。

(3) 抗体が細胞の受容体に付着し、細胞の機能障害をおこす。(機能抑制をおこす場合と無秩序な活性化をおこす場合がある)
 重症筋無力症ではアセチルコリン受容体に対する抗体ができる。抗体が受容体に付着することで受容体の作動がブロックされる。その結果、筋肉が無力化する)。
 甲状腺機能亢進症では、甲状腺刺激ホルモン受容体に対する抗体ができる。抗体が抗体が受容体に付着して受容体が作動する。付着し続けることで機能が亢進する。

III型(免疫複合体疾患)

 血中で免疫複合体が形成される病態。免疫複合体が身体のさまざな部位への沈着し、その結果のさまざな部位での炎症反応が起こる。
 全身性エリテマトーデス(SLE)、連鎖球菌感染後糸球体腎炎、多発動脈炎などがこの反応による。

 III型過敏症
SLEの時には、ヌクレオゾーム(ヒストンタンパクとDNAの集合)とそれに対する自己抗体からなる免疫複合体が、電荷によって糸球体基底膜に沈着するといわれている

IV型(T細胞介在型)

 T細胞の介在する免疫反応の異常で自己の人体組織が傷害される病態。
 1型糖尿病、多発性硬化症、関節リウマチ、接触性皮膚炎、炎症性腸疾患(クローン病)などがこの反応による。

(1) 遅延型(ツベルクリン反応など)
 CD4陽性ヘルパーT細胞は抗原(外来タンパク質)への暴露により活性化され、TH1エフェクター細胞に分化する。二度目の暴露でサイトカイン放出を引き起こす。IFNγはマクロファージを活性化して組織障害を引き起こし線維化を促進する物質を産生させ、TNFは炎症を促進する。

(2) T細胞介在型細胞障害(1型糖尿病など)
 CD8陽性細胞障害性T細胞は標的抗原を提示している抗原認識細胞を特異的に破壊する。CD8陽性細胞障害性T細胞はINFγを分泌する。

 IV型過敏症

移植免疫

臓器移植

 同種移植(ヒトからヒト)の際、移植片は異物と認識され、拒絶される。

 同種移植片の免疫認識は、細胞表面にある主要組織適合複合体(MHC: major compatibility complex)分子に対するものである。ヒトの主要組織適合複合体(MHC)を、特にHLA(human leukocyte antigen)という。

正常での、MHC分子の働き:

 Tリンパ球は、単球などからの抗原提示細胞から抗原を提示されることで、その抗原に対して反応し活性化する。単球からの抗原提示は、単球表面のMHC分子に結合した抗原を、Tリンパ球の表面にあるT cell receptor (TCR, T細胞受容体)が認識することで行われる。この時、Tリンパ球の受容体は自分自身のMHC分子によって提示された抗原タンパク質しか認識できないようになっている。

 MHCは2種類ある(クラスIとクラスII)。

 MHCクラスIは、CD8(+)細胞傷害性T細胞に抗原を提示する。
 細胞質内の異常タンパク質がプロテアソームで分解されてペプチドが出来る。ペプチドは小胞体でMHCクラスI分子と結合する。ペプチドと結合したMHCクラスI分子は細胞表面に運ばれる。異常なペプチドに特異的に反応するCD8(+)細胞傷害性T細胞が細胞をアポトーシスに陥らせる。
 貪食されたタンパク質から生じるペプチドがMHCクラスI分子で細胞傷害性T細胞に提示されることもある。

 MHCクラスIIは、CD4(+)ヘルパーT細胞に抗原を提示する。  細胞外タンパク質が貪食され、細胞内小胞に取り込まれ、ペプチドに分解される。ペプチドを含む小胞が、MHCクラスII分子を含む小胞(小胞体で作られる)と融合する。ペプチドがMHCクラスII分子と結合し、細胞表面に運ばれる。提示された異常なペプチドに特異的に反応するCD4(+)ヘルパーT細胞が活性化して炎症をひきおこす。

 CD4、CD8はT細胞補助受容体と呼ばれる。T細胞がペプチドとMHC分子の複合体を認識する時に、CD4はMCHクラスII分子と結合し、CD8はMCHクラスI分子と結合し、協調的に働く。
 TCRは、ペプチドとMHC分子の両方を特異的に認識する。

 MHCとTCRの仕組み
 MHCとTCRの仕組み

拒絶反応のおこる仕組み:

直接経路:
 移植された臓器に含まれる抗原提示細胞(単球など)が抗原に反応してTリンパ球に対して抗原提示をおこなうと、Tリンパ球は抗原を提示されたMHC分子が自分自身のものでないと認識することになり、自分自身のものでないMHC分子を異物と判断すると考えられている。Tリンパ球が異物と判断すると移植された臓器のMHC分子に対してT細胞介在性の免疫反応が起きる。細胞傷害性T(CD8+)が判断して活性化されるとアポトーシスをおこさせ、ヘルパーT(CD4+)が判断して活性化するとサイトカインを産生し炎症反応がおこる。

間接経路:
 移植された臓器の蛋白を抗原として認識し、ヘルパーT(CD4+)やBリンパ球が活性化される。炎症がおこるが形質細胞から移植臓器に対する抗体が産生される。

 拒絶反応のおこり方によって病態が下記のように分類される。

急性拒絶反応:
 移植後、数日から数週間でおこる。細胞性と液性の2種類の反応がおこっている。
 急性細胞性拒絶:浮腫、少量の出血が見られ、Tリンパ球の浸潤と組織破壊が見られる。
 急性液性拒絶:抗移植片抗体が原因の反応である。血管炎が主体の炎症であり、組織の虚血がおこる。
慢性拒絶:
 移植後、数ヶ月から数年かけて徐々に進行する。血管内膜の肥厚、間質の線維化が認められる。炎症性の細胞浸潤は軽微である。
超急性拒絶
 移植後、2から3時間でおこる。特殊な状況での移植でおこる拒絶反応である。感作経験のある(記憶Bがあり事前に抗移植片抗体が存在する場合)人に再度移植が行われた場合におこる。

骨髄移植

 骨髄移植では移植した骨髄が免疫をつかさどるので、移植した他人の免疫系が全身の組織を攻撃することがあり、GVHD (graft versus host disease)と呼ばれる。急性、慢性の病態が臓器移植と同様におこる。
 移植された骨髄が生着できない場合は、免疫不全となる。

 臓器移植(拒絶反応)と骨髄移植(GVHD)

免疫不全

 様々な原因で免疫不全がおこる。
 遺伝性免疫不全症には、Burton型X連鎖性無γ-グロブリン血症、高IgM症候群、IgA欠損症、IgGサブクラス欠損症、diGeorge症候群、重症複合免疫不全症、慢性肉芽腫症、補体成分の欠損症などがある。
 ウィルス感染による免疫不全症に、後天的免疫不全症候群 (AIDS)があり、これはHuman Immunodificiency Virus (HIV)の感染症である。このウィルスはCD4陽性細胞に感染し、感染細胞を消失させることでヒトに免疫不全をおこす。

[2020.4.]


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