Website of Pathology
by Makoto Mochizuki, M.D., Ph.D.


炎症

 もともと「炎症(inflammation)」という名称は、組織が赤く腫脹して熱を持っているので「中が燃えている(in - flame)」という意味にもとづいている。
 「炎症」とは「組織傷害を引き起こしたもともとの原因」と「それにより壊死した細胞や組織」を排除しようとする防衛反応である。

 「炎症」は、急性炎症と慢性炎症に分けて説明される。

急性炎症:

 外表から認められる急性炎症の徴候(炎症の主徴といわれる)は、「発熱」「発赤」「腫脹」「疼痛」「機能障害」の5つである。

 炎症の5主徴

急性炎症の誘因

 急性炎症の誘因には、感染症、外傷、熱、放射線、薬物、毒物、組織壊死、異物などがある。つまり、急性炎症は、外来微生物や異物に対する直接の防衛反応であり、細胞傷害をおこすものと細胞傷害をおこした後の壊死組織に対する反応である(アポトーシスによる細胞死では炎症はおこりにくい)。

 「急性炎症」でおこる生体反応の過程は以下の様にまとめられる。
1. 傷害因子の認識 2. 白血球の補給 3. 傷害因子の除去 4. 1-3の炎症反応の制御 5. 消炎(修復)

微生物や傷害細胞の認識

 傷害因子を細胞が認識するのに以下のような機構が知られる。

1. 細胞表面の受容体(細胞膜受容体)による微生物や壊死物質の認識
 血管内皮、樹状細胞、白血球などいろいろな細胞にToll-like receptorのfamilyなどいろいろな受容体がある。感知するとこうした細胞が炎症のメディエーターの産生をする。

2. 細胞内受容体(核内受容体)による細胞傷害の認識
 尿酸(DNAの破壊物)、DNA、ATP(ミトコンドリア傷害)、カリウム濃度の低下などで細胞傷害を感知して、細胞の状態を制御する。炎症のメディエーターのなかでも特にIL-1を分泌する。

白血球の補給

急性炎症での主な反応は、1. 血管変化 2.白血球補給 3.白血球の活性化 である

1. 血管変化が最初におこる

 一過性(数秒)の血管収縮がまずおこり、それに続いて血管拡張が起こり、局所血流が増加する(充血となり発赤する)。
 次に、微小血管の透過性の亢進が起こる。これにより、血管内のタンパク質を豊富に含む液体(滲出液)が血管外組織に移動する。滲出液による浮腫である。
 血液の粘度が増し、血流が遅くなる(血行静止がおこる)。

 急性炎症の血管変化

 リンパ管が反応し、リンパ流が増加する。それにより、2次的な炎症反応の波及がおこる。

2. 次に白血球の補給がおこる

急性炎症には主に好中球と単球(マクロファージ・組織球)が関与する。

白血球の補給は以下のようにおこなわれる。
1. 血行静止
2. 白血球が血管内皮表面に沿って集積し始める
3. 白血球が内皮細胞とゆるく接着する
4. ゆるい接着なので血流におされて白血球が回転する
5. 強固な癒着がおこる
6. 白血球が血管内皮細胞間を通って血管外に遊走する

 好中球、単球の遊走までのまとめ

1-2. 血行静止の状態になると、好中球は血管腔の辺縁に集積するようになる(辺縁趨向(へんえんすうこう) margination)。

3-4. 好中球は辺縁趨向すると、まず内皮細胞へゆるく接着する。接着がゆるいので血管壁に沿って回転する。
 組織球、マスト細胞、血管内皮細胞は、微生物や壊死組織に遭遇すると、TNF、IL-1まどいろいろなケモカインを分泌する。TNFとIL-1は炎症に隣接する微小血管に働き、いろいろな接着因子の発現を誘導する。1-2時間のうちに内皮細胞にはE-selectinの発現とL-selectionリガンド(Sialyl-Lewis X/PNAd on GLYCAM-1, CD34, MAdCAM-1等)の発現が始まる。また、ヒスタミンやスロンビンのような他のメディエーターの刺激がP-selectionを細胞質のWeibel-Palade body内の蓄積から血管内皮細胞の表面に再配布させる。
 白血球は、L-selectinを細胞突起の先端に発現し、E-selectinリガンド(Sialyl-Lewis X(e.g.,CLA) on glycoproteins)とP-selectinリガンド(Sialyl-Lewis X on PSGL-1(P-selectin glycoprotein ligand-1), ほかのglycoproteins)を発現する。
 P-, E-, L-selectinによる結合で好中球・単球は血管内皮細胞にゆるく結合する。これらの結合はゆるい結合なので、付いては離れ、離れては付き、その結果、流れの中で白血球は回転して流れていく。

5. 好中球と内皮細胞が接着すると、さらに強固な接着が起こる。これは、白血球表面のインテグリンと呼ばれるタンパク質のファミリーで制御される。
 TNFとIL-1は血管内皮細胞表面のインテグリン・リガンドの発現を誘導する。発現されるインテグリン・リガンドは主に、vascular cell adhesion molecule 1 (VCAM-1, β1インテグリンVLA-4のリガンド)とintercellular adhesion molecule-1 (ICAM-1, β1インテグリンLFA-1のリガンド) である。
 炎症部からのいろいろなケモカインによって、回転する白血球の表面のインテグリンが高親和の状態に変換される。血管内皮細胞表面のインテグリン・リガンドの発現と、白血球表面のインテグリンの親和性の亢進によって、血管内皮細胞と白血球は固く結合する。
 白血球は回転をやめる。

6. 強固に接着した好中球は、血管壁を通り抜けて血管外に遊出する。血管内皮細胞間への白血球の移動には、platelet endothelial cell adhesion molecule(PECAM-1, CD31とも呼ばれる)が深く関係している。PECAM-1は血管内皮細胞と白血球の表面に存在し、両者の相互作用(同一分子間接着)が重要な役割を果たす。
 その後、白血球は、基底膜を通過して血管外に出る(たぶん膠原線維を分解する酵素(コラゲナーゼ)を分泌する)。

 好中球、単球の趨向

 [ 白血球の辺縁趨向・回転。遊走の動画はこちら ]

 血管外に遊出した好中球は、走化性刺激に向かって間質組織内を遊走する。種々の白血球走化性因子の濃度勾配に沿って遊走する。白血球遊走因子とは、(1)細菌の産生物 (2)サイトカイン(主にケモカインとよばれるもの) (3) 補体系成分(特にC5b)(4) リポキシゲナーゼ経路のアラギドン酸代謝産物(特にロイコトリエンB4)などである。
 白血球遊走因子が、白血球の7回膜貫通型受容体(Gタンパク質共役型受容体)を刺激する。その結果として、白血球の細胞質内のアクチンとミオシンの相互作用をひきおこして、細胞が移動する。

 好中球、単球の遊走

 単球でも、以上のような補給はほぼ同様に起こる。

 急性炎症がおこってから、最初の6-24時間は好中球が大部分を占める。24~48時間後に好中球は単球と入れ替わる。
 好中球のほうが、単球に比べて、早期に出て、数が多く、ケモカインに迅速に反応し、血管内皮細胞に接着しやすい。しかし、好中球は血管外に出た後、24~48時間でapoptosisをおこし消失する(長く生きない)。
 単球の寿命は長い。

 好中球、単球の入れ替わり

3. 白血球(好中球・単球)が活性化する

 白血球表面のいろいろなレセプター(Toll-likeレセプター、サイトカインレセプター、食細胞レセプター、7回膜貫通型レセプター(Gタンパク質共役型レセプター)など)が、微生物や壊死物質の成分やいろいろなメディエーターを認識して、白血球の活性化がおこる。

 白血球のレセプター

 活性化された白血球はいろいろな活動をする。粒子を貪食すること、貪食した微生物を破壊すること、壊死組織を除去したりする物質を産生すること、炎症反応を増幅するメディエーターを産生すること、などの活動をする。
 細菌などを破壊する一番重要な機能は「貪食」である。

白血球の貪食過程:

 白血球貪食

 [ マクロファージによる貪食の動画(youtube) ]

 [ 好中球による貪食の動画(youtube) ]

(1) 貪食白血球による粒子の認識と結合がおこる。
 白血球の表面にある特異的レセプター(食細胞レセプター)に微生物や壊死物質の成分が結合することで、白血球はこれらを認識する。食細胞レセプターにはマンノース受容体、マクロファージ・スカベンジャー受容体、マクロファージ・インテグリン(Mac-1)などがある。マンノースは細菌の表面によくある糖類で、人には存在しないためマンノース受容体で細菌の認識が可能となる。スカベンジャー受容体とは、変性低比重リポタンパク(low density lipoprotein, LDL)をリガンドとする受容体ファミリーの総称で、変性したLDLのみならず、様々な変性蛋白、細菌から放出されるエンドトキシンなどとも結合する。
 その他、微生物の表面に付着する抗体(IgGなど)、補体タンパク質C3の分解産物、コレクチン(血漿中の糖鎖結合性レクチン)などの人体(宿主)由来のタンパク質を認識する受容体が存在する。白血球が認識する人体(宿主)由来タンパク質をオプソニン(opsonin)という。

(2) 飲み込みとファゴゾーム(貪食空胞)の形成がおこる。

(3) ファゴゾームがリソソームと融合する(ファゴリソソームと呼ばれる)。

(4) 取り込まれた物質の殺菌と分解が行われる。
 ファゴゾームとリソソームの融合した腔内(ファゴリソソーム内)には、いろいろな殺菌の仕組みやいろいろな酵素が含まれる。活性酸素種、リソソーム酵素などが、ファゴリソソームの空胞内で貪食物を処理する。好中球は、アズール顆粒と呼ばれるリソソームを持ち、これには殺菌力の強いミエロペルオキシダーゼ(MPO)が含まれる。

貪食以外の活性化白血球の働き:

(1) 炎症反応を増幅するメディエーターの産生放出

(2) 殺菌物質や分解酵素を細胞外に放出
 放出された殺菌酵素や分解酵素は、感染微生物だけでなく、周囲の人体組織も区別なく傷害する。白血球による周囲の人体組織の傷害がおこることとなる。

(3) 好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps:NETs)

 好中球細胞外トラップ

 好中球は、自身のクロマチン(DNA, ヒストンなど)を細胞外へ放出してネット状の構造を形成して細菌を絡めとることがあり、好中球細胞外トラップと呼ばれる。

急性炎症の形態パターン

 急性炎症は、上記のように進行するが、いつもまったく同じように進行するわけではなく、いろいろな状態をしめす。これらを形態的に下記のように分類する。

漿液性炎症:滲出液による浮腫が目立つ炎症のこと。
線維素性炎症:線維素(フィブリン)の沈着が目立つ炎症のこと。
化膿性炎症:膿(組織の壊死や好中球の集合よりなるもの)が目立つ炎症のこと。
膿瘍:限局性結節状に膿(組織の壊死や好中球の集合)が集積すること。結節中央の組織は完全に破壊されている。
潰瘍:臓器や組織表面が限局的に欠損すること。
出血性炎:出血が目立つ炎症のこと。

 その他、下記のような分類もされる。
壊疽性炎:壊死組織や滲出液に2次的に感染(特に腐敗菌感染)が加わった炎症。腐敗性炎ともいう。
増殖性炎:修復反応が目立つ炎症。慢性炎症で。
肉芽腫性炎:類上皮細胞肉芽腫の形成がみられる炎症。

膿瘍(矢印)。皮膚の真皮内に好中球の集合(背景組織は消失している)が見られる。
 膿瘍
 膿瘍

炎症の化学メディエーター

 炎症の場で働く細胞は、化学メディエーターと呼ばれるさまざまな物質によって、その活動を制御されている。化学メディエーターは、炎症部位にいる細胞により局所的に産生されることもあれば、血漿に含まれ全身を循環している場合もある。ほとんどのメディエーターは標的細胞上の特異的レセプターに結合することにより効果を発揮する。メディエーターは標的細胞を刺激し、二次的な機能分子を放出させる。ほとんどのメディエーターの機能は厳密に制御されている。

 細胞由来のメディエーターには以下のようなものがある。
 血管作動性アミン(ヒスタミン、セロトニン)、アラキドン酸代謝物質(プロスタグランジン、ロイコトリエン)、血小板活性化因子(PAF)、サイトカイン(Tumor necrotic factor (TNF)、インターロイキン-1 (IL-1))、活性酵素種、一酸化窒素、リソソーム酵素。

 血漿由来メディエーターには以下のようなものがある。
 補体、凝固因子、キニン。

   

慢性炎症

 慢性炎症は、数週間から数年の長期に及ぶ炎症のことである。

 慢性炎症は、
(1) 活動性炎症(単球主体、免疫反応が加わりリンパ球が浸潤する)
(2) 組織傷害(炎症に関連した細胞の産生する因子などにより引き起こされる組織破壊)
(3) 治癒(新生血管の増生および線維化を伴う組織修復)
 が同時に進行する状態である。
 免疫反応、治癒、組織修復についてはこの後に解説する。

 慢性炎症の原因になるものは、除去困難な微生物の持続感染(梅毒、C型肝炎ウィルスなど)や、過敏性疾患(自己免疫疾患、アレルギー疾患)や、潜在性毒性物質への長期暴露、などである。

慢性炎症は下図のように急性炎症から進展し、消炎、修復する

 炎症の転帰

 慢性炎症に関与する細胞は、マクロファージ(=単球、組織球)、リンパ球、形質細胞(免疫反応に関与する)、好酸球(寄生虫感染やIgE依存性の免疫反応に関与する)、肥満細胞(IgE依存性の免疫反応に関与する)、などである。
 好中球浸潤は急性炎症の典型的特徴であるが、多くの種類の慢性炎症では、微生物や壊死物質が存続するため、あるいはマクロファージの産生するメディエーターのため、好中球浸潤が持続することが多い。

炎症の全身に及ぼす影響

 身体の局所に炎症がおこった時に、全身にいろいろな影響を与える。

 発熱、急性期タンパク質(C反応性タンパク質:CRP)の血漿濃度上昇、白血球数増加、心拍数増加、血圧上昇、発汗減少、ふるえ、悪寒、食欲不振、傾眠、倦怠感などである。

 細菌が血中にはいり全身感染症をおこす(菌血症)と、敗血症性ショック、播種性血管内凝固症候群(DIC)になることがある。ショックは循環障害の項目で、DICは血液疾患の項目で解説される。

[2020.6.]


組織修復

 修復(repair)とは、損害された組織の構造と機能を回復させる過程であり、2種類の機構により達成される。

 再生(regeneration): 損傷した組織を元に戻し、本質的に正常な状態へ戻ること(組織の種類により正常な状態に戻りにくいことがある)。

 治癒(healing): 結合組織(線維性組織)への置換により修復がなされる。これは、損傷された組織に正常に戻る能力がない場合や組織の支持構造が重度に傷害された場合におこる。治癒の結果として「瘢痕(scar)」が形成される。また、線維化(fibrosis)とは、膠原線維(コラーゲン collagen)が広範に沈着する状態をいう。

再生(regeneration)

増殖能に基づいた組織のグループ分け

 再生する(失われた組織がもとに戻る)には、組織の増殖が必要である。組織の増殖能に関して、人体の組織は3つのグループに分類される。
(1) 不安定組織(labile tissue): 上皮、骨髄などが相当する。常に失われるとともに、組織幹細胞からの分化や分化細胞の増殖によって常に置き換わっている。
(2) 安定組織(stable tissue): 肝臓、腎臓、膵臓、血管内皮細胞、線維芽細胞などが相当する。定常状態では、G0にとどまって最小限の増殖能のみ有する。障害が起こると増殖可能な状態になる。
(3) 永久組織(permanent tissue):神経細胞、心筋細胞などが相当する。出生後には増殖しないと考えられている(でも少しは増殖する)。不十分な再生しかしない。

治癒(healing)

治癒の過程

 治癒とは、傷害された組織の結合組織(主に膠原線維組織)への置換である。

 治癒は以下の様に進行する。
(1) 新しい血管の形成(血管新生 angiogenesis)が行われる。骨髄からの内皮前駆細胞(EPC)の動因による血管新生がおこる。また、既存の血管の発芽による血管新生もおこる。VEGF(血管内皮成長因子)やFGF-2(塩基性線維芽細胞増殖因子)などが関与する。
(2) 肉芽組織(granulation tissue)の形成がおこる。血管新生と細胞外マトリックスの沈着によって、組織欠損部に芽が出るように出てくる新しい組織を肉芽組織と呼ぶ。肉芽組織(granulation tissue)と肉芽腫(granuloma, epithelioid cell granuloma)は似た言葉だがまったく違うものである。

 肉芽組織
 肉芽組織 [組織新生の先端部(表面)では血管新生が盛んであり、深部では浮腫・細胞外マトリックスの沈着が目立つようになってきている]
 肉芽組織

(3) 線維芽細胞の損傷部への遊走と増殖、間質マトリックス(特に膠原線維)の合成と沈着がおこる。
 間質マトリックスは、線維芽細胞などの間葉系よって合成され、無定形ゲルを形成する傾向がある。コラーゲン、フィブロネクチン、選らすチン、プロテオグリカン、ヒアルロン酸などで構成される。
(4) 線維性組織の成熟と再構成(リモデリング remodeling)がおこる。修復過程の最終的な結果は、ある面から見れば、細胞外マトリックスの合成と分解のバランスの上に成り立っている。マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP) ファミリーによって、細胞外マトリックスは分解される。

 心筋瘢痕
心筋梗塞(虚血性の心筋壊死)後、壊死物質の除去が終わり、心筋消失部位に細胞外マトリックスの沈着と膠原線維増生の初期状態がみられる(右:マッソン染色で青色にみえる膠原線維の量はまだ少ない)。

(5) 「瘢痕形成 scar formation」(線維化)がおこる。膠原線維が沈着し、損傷部は最終的には少し縮む。

 心筋瘢痕
心筋梗塞(虚血性の心筋壊死)後の瘢痕組織。心筋の失われた領域が膠原線維(右:マッソン染色で青色)に置き換わっている。傷害されずに残存する心筋はマッソン染色で赤紫色に見える。

皮膚の治癒

 皮膚が外傷により障害されたときの治癒は、下記の2つの場合を代表として説明される。
 一次治癒:切り口が鋭く、組織欠損が少ない傷の場合の治癒過程のこと。
 二次治癒:組織欠損が広範な傷の場合の治癒過程のこと。

 皮膚の治癒

 皮膚の病的な修復として「ケロイド keloid」があげられる。
 皮膚の組織修復に関連して、極度に過剰なコラーゲン沈着がおこって、皮膚から隆起した塊をつくる。組織は線維組織からなるが、その内に特徴的な太い膠原線維束が認められる。

[2020.6.]



免疫

自然免疫と獲得免疫

微生物や異物に対する人体の防衛反応には、自然免疫と獲得免疫の2つのタイプがある。

自然免疫

 以下のような非特異的な防衛反応を自然免疫と呼ぶ。

1. 皮膚、消化管、呼吸器など外表に曝される「上皮」が体内への侵入を防いでいる。

2. 貪食細胞(好中球、単球)や血漿タンパク質(補体など)が関与した急性炎症の反応。
 好中球、単球、マクロファージは、特定の分子を認識するのでなく、ある一群の分子をパターン認識受容体で認識する。  細胞膜表面に発現している受容体として、TLR (Toll-like receptor, Toll様受容体)やCLR (C-type lectin Receptor, C型レクチン受容体)などがある。細胞質にある受容体としては、NLR (NOD-like receptor)やRLR (RIG-I-like receptor)などがある。

 非特異的受容体

 ヒトでは10種類のToll様受容体(Tall-like receptor, TLR)が知られており、それぞれが認識する分子とそれに対応する感染病原体の成分(ヒトには存在しないもの)は下記の様である。
 
 TLR1 トリアシルリポタンパク質(病原体の膜成分)
 TLR2 トリアシルリポタンパク質(病原体の膜成分)、ペプチドグリカン(グラム陽性菌)、βグリカン(真菌の多糖類)
 TLR3 二本鎖RNA(二本鎖RNAウィルス)
 TLR4 リポ多糖(グラム陰性桿菌の細胞膜)
 TLR5 フラジェリン(細菌の鞭毛タンパク質)
 TLR6 シアシルリポタンパク質(病原体の膜成分)
 TLR7 一本鎖RNA(一本鎖RNAウィルス)
 TLR8 一本鎖RNA(一本鎖RNAウィルス)
 TLR9 メチル化されていないDNAのCG配列(CpG)(ウィルスDNA・細菌DNA)
 TLR10 不明
 
 C型レクチン受容体(CLR)の中で、DC-SIGN (dendritic cell-specific ICAM-3 grabbing non-integrin)やマンノース受容体(MR)などいくつかのものは、種々の病原体を認識し、外来異物の捕捉のための受容体として機能する。

3. NK細胞は、感染細胞や腫瘍細胞をアポトーシスに陥らせる作用と、INFγを分泌してマクロファージを活性化させる作用を持つリンパ球の一種であるが、免疫グロブリンもT細胞受容体も発現しておらず、非特異的に反応すると考えられる。

獲得免疫(免疫反応)

 獲得免疫のことを、通常、「免疫系」とか「免疫反応」と呼ぶ。自然免疫よりさらに強力な防衛反応である。侵入したものを「特異的に認識して」防御を行うのが特徴である。リンパ球(Tリンパ球とBリンパ球など)とリンパ球の生産物が、獲得免疫の反応の中心である。

 以下、獲得免疫を「免疫反応」として解説する。

正常の免疫反応

 ひとつのリンパ球(Tリンパ球、Bリンパ球)の表面に発現している受容体は、ある一種類の「抗原 antigen」にしか結合しない。しかし、全リンパ球(10の12乗の個数ある)でみると、人体は無数の抗原を認識できることになる。

 体内には、遺伝子再構成によって特定抗原を認識するナイーブなリンパ球(Tリンパ球、Bリンパ球)が多数産生されている。ナイーブなリンパ球は、自分が認識できるある特定の抗原を認識すると、増殖し、機能する細胞に分化し、その抗原をもつ侵入物に対して防衛反応をおこす。侵入物を駆逐した後、その特定な抗原を認識する機能する細胞の一部は記憶リンパ球として体内に残る。

 この特定の抗原の2回目の侵入からは、記憶リンパ球(機能するリンパ球)があるため、迅速かつ効率的に防衛反応を起こすことができるようになる。
 予防接種は、記憶リンパ球の生成が重要な目的である。

 体内にはナイーブなリンパ球と記憶リンパ球が存在するが、記憶リンパ球のほうがより大量に存在する。

 免疫反応には、ナイーブなリンパ球が反応する一次免疫反応と、記憶リンパ球が反応する二次免疫反応がある。

一次免疫反応

 ナイーブ・リンパ球の反応

 T細胞は胸腺で成熟する。この時、遺伝子再構成がおこって多様なT細胞受容体(T cell recepter:TCR)を持つものが存在するようになる。成熟したナイーブなT細胞は、リンパ節に移動する。リンパ節で、炎症の場からやってきた抗原提示細胞から抗原提示を受ける。特定抗原反応性T細胞が選ばれ、増殖し、エフェクターT(機能T細胞)に変化し、機能する。 消炎後、一部のエフェクターT細胞は記憶T細胞として残存する。

 B細胞は骨髄で成熟する。この時、免疫グロブリンの遺伝子再構成がおこり多彩な受容体をもつ。成熟したナイーブなB細胞は、リンパ節で、細胞表面のIgM(IgD)で抗原を認識すると、ヘルパーTの補助を受けて形質細胞に分化する。最初はIgMを産生する形質細胞が出現するが、クラスチェンジがおこって、順次IgG, IgEを産生する形質細胞が出現する。同時に体細胞高頻度変異(遺伝子の再構成)がおこって抗原に対する特異性がさらに増す。消炎後、一部の成熟B細胞は、細胞表面に特異性の高いIgGをもつ形で記憶B細胞として残存する。

二次免疫反応

 ナイーブなリンパ球に比して、記憶リンパ球は素早く強力に反応する。記憶リンパ球の方が数が多く、多くの抗原に反応できる体制が整っている。

   一次・二次免疫反応の比較

正常な免疫反応の概要

 免疫反応

Bリンパ球の働き(液性免疫)

 Bリンパ球が関与する免疫反応を「液性免疫」という。
 Bリンパ球は形質細胞となって、特定の「抗原 antigen」に付着する特定の「抗体 antibody」を産生して、免疫反応に関与する。
 抗体は特定の抗原(タンパク質など)に付着する。
 抗体が細菌表面の抗原に付着すると・・
1) 補体と共同して細菌を傷害する(直接傷害性)。
2) 抗体を目印にマクロファージが細菌を貪食して処理する(オプソニン作用)。

 「抗体」にはいくつか種類がある。
IgM: いくつかの免疫グロブリンがジスルフィド結合でつながって多量体を形成している。五量体が多いが六量体のものもある。多量体であるため、親和力が大きく、補体活性が高い。感染の初期に発現する。
IgG: ヒトの免疫グロブリンの中では最も数の多いものである。IgG1~IgG4まで4つのサブタイプがある。
IgA: 粘膜の免疫反応の主体である。二量体を作ることが多い。IgA1とIgA2の2つのサブタイプがある。
IgD:扁桃付近で働く特殊なもの。
IgE:I型過敏症などで働く特殊なもの。

 抗体は糖タンパク質である。
 H鎖(heavy chain)2本とL鎖(light chain)2本で構成される。
 H鎖とL鎖にはそれぞれ可変領域(V領域, variable region)と定常領域(C領域, constant region)がある。Fabフラグメント(fragment antigen binding, 抗原結合性フラグメント, Fab領域)2本とFcフラグメント(fragment crystallizable, 結晶性フラグメント, Fc領域)1本から構成されるともいえる。
 L鎖は、κ鎖(kappa chain)とλ鎖(lambda chain)の2つのアイソタイプがある。
 H鎖は、C領域の違いで5つのクラスに分類される。IgG(γ鎖), IgM(μ鎖), IgD(δ鎖), IgA(α鎖), IgE(ε鎖)。

 抗体の構造

 2本のFabの間で抗原(赤玉)を認識する

Tリンパ球の働き(細胞性免疫)

 Tリンパ球が関与する免疫反応を「細胞性免疫」という。
 Tリンパ球には、主に、ヘルパーTリンパ球(CD4を表面に持つ)と、細胞障害性Tリンパ球(CD8を表面に持つ)がある。その他、自然免疫に分類されるNK細胞(CD56+)がTリンパ球に含まれる。

 ヘルパーTリンパ球は、サイトカインを分泌して、炎症を維持・増強する。何種類かに分類される。
 TH1(INFγを分泌する通常の炎症で働く)
 TH2(蠕虫感染、I型過敏症で働く特殊なもの)
 TH17(IL-17を分泌する特殊なもの)
 THF(B細胞の分化・抗体産生の制御)
 Treg(免疫応答の抑制的制御)

 細胞傷害性Tリンパ球は、ウィルス感染細胞などをアポトーシスで殺す働きをする。

過敏症

 免疫反応が「異常に過剰に」おこる病的状態を過敏症と呼ぶ。主に4つに分けて説明する(クームスの分類 I型~IV型)。
 I型(即時型・アレルギー反応):TH2, IgE, マスト細胞, 好酸球が関与する
 II型(抗体介在型):異常な抗体が産生されることによる
 III型(免疫複合体型):血中に異常な免疫複合体が形成される
 IV型(遅延型):Tリンパ球の異常な反応

I型(即時型)

 ヘルパーTリンパ球(TH2), IgE, マスト細胞(肥満細胞), 好酸球が関与する反応である。
 正常では、蠕虫感染の時の防衛反応である。いくつかの蛇毒に対する防衛反応でもある。
 この反応が、本来反応しない外来抗原に対して異常に過剰に反応して病気をおこす。
 アレルギー反応と呼ばれる。
 外来抗原のことをアレルゲンという。

 アレルギー性鼻炎、気管支喘息、蕁麻疹(じんましん)、アトピー性皮膚炎、湿疹、食物アレルギー、アナフィラキシー・ショックなどの病気がI型過敏症でおこる。

 蠕虫に対しては、微生物を対象とした通常の免疫反応(TH1が関与する)は役にたたない。蠕虫は大きいので白血球が貪食できず、 IgGが役に立たないのである。

蟯虫に対する正常な免疫反応

 蠕虫に対する免疫反応は、まず最初に、外来抗原によってTH2(CD4+ヘルパーT細胞のひとつのサブセット)の活性化がおこる。TH2は、IL-13(上皮細胞を増殖させ、粘液産生を増加させる)、IL-5(好酸球を遊走、活性化する)、IL-4(B細胞のIgE産生を促進する)、IL-3とIL-9(いずれもマスト細胞を遊走させる)を産生する。
 TH2の応答によって、IgE高値、血中の好酸球数の増加、組織でのマスト細胞数の増加がおこる。
 マスト細胞と活性化好酸球の表面にはFcεRI受容体が発現している。FcεRI受容体にはIgEのFc部が結合する。形質細胞から分泌されたIgEはFcεRI受容体をもつ細胞の表面に素早く結合する。この結合は非常に強く、一度結合したら解離しない。IgEの結合したマスト細胞を「感作されたマスト細胞」と呼ぶ。
 産生されたIgEは、可溶性の抗体として抗原と結合する機能を持たず、抗原に対するマスト細胞、好酸球の表面受容体として機能する。

 マスト細胞の活性化

 マスト細胞の表面のIgEに外来抗原が結合し2個が架橋することで、マスト細胞の脱顆粒がおこる。顆粒内の物質のおもなものは、ヒスタミン(血管透過性亢進、平滑筋攣縮、粘液分泌亢進を起こす)、中性プロテアーゼ、TNFαであり、その他に、プロスタグランジンD2、ロイコトリエン(B4、C4、D4)なども顆粒外に別に産生され分泌される。
 活性化好酸球でも、表面のIgEに外来抗原が結合し2個が架橋することで、好酸球は毒性物質を分泌して蠕虫を傷害できる。これらは蠕虫の近傍から分泌されることとなる。

 蠕虫に対する好酸球

 特定の外来抗原に反応するIgEを表面にもつ感作されたマスト細胞は、反応が終息した後も付近に残存している。好酸球は寿命が短いので残存しない。
 2回目以降の外来抗原侵入時には、肥満細胞の反応が迅速かつ効率的におこる。数分のうちのおこる。
「即時型」という所以である。

 こうした蠕虫などに対応する免疫反応が、本来反応してはいけない抗原(タンパク質)に感作されて、感作されたマスト細胞が出来てしまい、異常に反応してしまうのがI型過敏症である。

I型過敏症での反応

 まず、外来抗原による、TH2(CD4ヘルパーT細胞のひとつのサブセット)の活性化がおこる。TH2が産生したIL-4は、Bリンパ球を活性化し、Bリンパ球のIgEクラススイッチを経て外来抗原に対して特異的なIgEを分泌させる。TH2が産生したIL-5は好酸球を活性化させ、IL-13は上皮細胞に働いて粘液分泌を亢進させる。マスト細胞表面のFceRI受容体にIgEが結合する。IgEが結合したマスト細胞を「感作されたマスト細胞」と呼ぶ。好塩基球、好酸球もFceRI受容体を持つ。感作されたマスト細胞の表面のIgEに外来抗原が結合し2個が架橋することで、マスト細胞の中で一連の生化学的シグナルが誘発される。肥満細胞からプロスタグランジンD2(気管支攣縮、粘液分泌増加)、ロイコトリエンC4とロイコトリエンD4(血管透過性亢進、気管支平滑筋収縮作動)、ロイコトリエンB4(好中球、好酸球、単球に対して走化性を持つ)などが分泌される。マスト細胞からは、その他いろいろなサイトカインも分泌される。
 特定の外来抗原に反応するIgEを表面にもつ感作されたマスト細胞は、反応が終息した後も付近に残存しており、2回目以降の外来抗原侵入時には、肥満細胞の反応が迅速かつ効率的におこる。

 反応が高度で全身に及んだ場合には、全身の血管拡張などによる循環不全・血圧低下をおこす。これを全身性アナフィラキシーとかアナフィラキシーショックと呼ぶ。

 I型過敏症
 I型過敏症

II型(抗体介在型)

 自己の細胞や組織構造に対して特異的な抗体ができる病態。
 できた抗体の反応の仕方によっていくつかの病態をしめす。

(1) オプソニン作用や貪食作用などによって抗体が付着した細胞が壊されてしまう。
 自己免疫性溶血性貧血、特発性血小板減少性紫斑病がこうした機序でおこっている。

 II型過敏症-1

(2) 細胞や組織構造に抗体が沈着して炎症反応をおこす
 グッドパスチャー症候群(抗基底膜抗体ができる)や天疱瘡がこうした機序でおこっている。

(3) 抗体が細胞の受容体に付着し、細胞の機能障害をおこす。(機能抑制をおこす場合と無秩序な活性化をおこす場合がある)
 重症筋無力症ではアセチルコリン受容体に対する抗体ができる。抗体が受容体に付着することで受容体の作動がブロックされる。その結果、筋肉が無力化する)。
 甲状腺機能亢進症では、甲状腺刺激ホルモン受容体に対する抗体ができる。抗体が抗体が受容体に付着して受容体が作動する。付着し続けることで機能が亢進する。

III型(免疫複合体疾患)

 血中で免疫複合体が形成される病態。免疫複合体が身体のさまざな部位への沈着し、その結果のさまざな部位での炎症反応が起こる。
 全身性エリテマトーデス(SLE)、連鎖球菌感染後糸球体腎炎、多発動脈炎などがこの反応による。

 III型過敏症
SLEの時には、ヌクレオゾーム(ヒストンタンパクとDNAの集合)とそれに対する自己抗体からなる免疫複合体が、電荷によって糸球体基底膜に沈着するといわれている

IV型(T細胞介在型)

 T細胞の介在する免疫反応の異常で自己の人体組織が傷害される病態。
 1型糖尿病、多発性硬化症、関節リウマチ、接触性皮膚炎、炎症性腸疾患(クローン病)などがこの反応による。

(1) 遅延型(ツベルクリン反応など)
 CD4陽性ヘルパーT細胞は抗原(外来タンパク質)への暴露により活性化され、TH1エフェクター細胞に分化する。二度目の暴露でサイトカイン放出を引き起こす。IFNγはマクロファージを活性化して組織障害を引き起こし線維化を促進する物質を産生させ、TNFは炎症を促進する。

(2) T細胞介在型細胞障害(1型糖尿病など)
 CD8陽性細胞障害性T細胞は標的抗原を提示している抗原認識細胞を特異的に破壊する。CD8陽性細胞障害性T細胞はINFγを分泌する。

 IV型過敏症

移植免疫

臓器移植

 同種移植(ヒトからヒト)の際、移植片は異物と認識され、拒絶される。

 同種移植片の免疫認識は、細胞表面にある主要組織適合複合体(MHC: major compatibility complex)分子に対するものである。ヒトの主要組織適合複合体(MHC)を、特にHLA(human leukocyte antigen)という。

正常での、MHC分子の働き:

 Tリンパ球は、単球などからの抗原提示細胞から抗原を提示されることで、その抗原に対して反応し活性化する。単球からの抗原提示は、単球表面のMHC分子に結合した抗原を、Tリンパ球の表面にあるT cell receptor (TCR, T細胞受容体)が認識することで行われる。この時、Tリンパ球の受容体は自分自身のMHC分子によって提示された抗原タンパク質しか認識できないようになっている。

 MHCは2種類ある(クラスIとクラスII)。

 MHCクラスIは、CD8(+)細胞傷害性T細胞に抗原を提示する。
 細胞質内の異常タンパク質がプロテアソームで分解されてペプチドが出来る。ペプチドは小胞体でMHCクラスI分子と結合する。ペプチドと結合したMHCクラスI分子は細胞表面に運ばれる。異常なペプチドに特異的に反応するCD8(+)細胞傷害性T細胞が細胞をアポトーシスに陥らせる。
 貪食されたタンパク質から生じるペプチドがMHCクラスI分子で細胞傷害性T細胞に提示されることもある。

 MHCクラスIIは、CD4(+)ヘルパーT細胞に抗原を提示する。  細胞外タンパク質が貪食され、細胞内小胞に取り込まれ、ペプチドに分解される。ペプチドを含む小胞が、MHCクラスII分子を含む小胞(小胞体で作られる)と融合する。ペプチドがMHCクラスII分子と結合し、細胞表面に運ばれる。提示された異常なペプチドに特異的に反応するCD4(+)ヘルパーT細胞が活性化して炎症をひきおこす。

 CD4、CD8はT細胞補助受容体と呼ばれる。T細胞がペプチドとMHC分子の複合体を認識する時に、CD4はMCHクラスII分子と結合し、CD8はMCHクラスI分子と結合し、協調的に働く。
 TCRは、ペプチドとMHC分子の両方を特異的に認識する。

 MHCとTCRの仕組み
 MHCとTCRの仕組み

拒絶反応のおこる仕組み:

直接経路:
 移植された臓器に含まれる抗原提示細胞(単球など)が抗原に反応してTリンパ球に対して抗原提示をおこなうと、Tリンパ球は抗原を提示されたMHC分子が自分自身のものでないと認識することになり、自分自身のものでないMHC分子を異物と判断すると考えられている。Tリンパ球が異物と判断すると移植された臓器のMHC分子に対してT細胞介在性の免疫反応が起きる。細胞傷害性T(CD8+)が判断して活性化されるとアポトーシスをおこさせ、ヘルパーT(CD4+)が判断して活性化するとサイトカインを産生し炎症反応がおこる。

間接経路:
 移植された臓器の蛋白を抗原として認識し、ヘルパーT(CD4+)やBリンパ球が活性化される。炎症がおこるが形質細胞から移植臓器に対する抗体が産生される。

 拒絶反応のおこり方によって病態が下記のように分類される。

急性拒絶反応:
 移植後、数日から数週間でおこる。細胞性と液性の2種類の反応がおこっている。
 急性細胞性拒絶:浮腫、少量の出血が見られ、Tリンパ球の浸潤と組織破壊が見られる。
 急性液性拒絶:抗移植片抗体が原因の反応である。血管炎が主体の炎症であり、組織の虚血がおこる。
慢性拒絶:
 移植後、数ヶ月から数年かけて徐々に進行する。血管内膜の肥厚、間質の線維化が認められる。炎症性の細胞浸潤は軽微である。
超急性拒絶
 移植後、2から3時間でおこる。特殊な状況での移植でおこる拒絶反応である。感作経験のある(記憶Bがあり事前に抗移植片抗体が存在する場合)人に再度移植が行われた場合におこる。

骨髄移植

 骨髄移植では移植した骨髄が免疫をつかさどるので、移植した他人の免疫系が全身の組織を攻撃することがあり、GVHD (graft versus host disease)と呼ばれる。急性、慢性の病態が臓器移植と同様におこる。
 移植された骨髄が生着できない場合は、免疫不全となる。

 臓器移植(拒絶反応)と骨髄移植(GVHD)

免疫不全

 様々な原因で免疫不全がおこる。
 遺伝性免疫不全症には、Burton型X連鎖性無γ-グロブリン血症、高IgM症候群、IgA欠損症、IgGサブクラス欠損症、diGeorge症候群、重症複合免疫不全症、慢性肉芽腫症、補体成分の欠損症などがある。
 ウィルス感染による免疫不全症に、後天的免疫不全症候群 (AIDS)があり、これはHuman Immunodificiency Virus (HIV)の感染症である。このウィルスはCD4陽性細胞に感染し、感染細胞を消失させることでヒトに免疫不全をおこす。

[2020.6.]


[戻る]

  

inserted by FC2 system