Website of Pathology
by Makoto Mochizuki, M.D., Ph.D.


皮膚

 皮膚病変の診断は、炎症性疾患と腫瘍性疾患で、進め方が異なる。
 炎症性疾患の診断には、皮膚表面から観察した肉眼所見、経過による病変の変化が重要であり、それらで多くの病名を決めることができる。組織学的検索はこれらの所見を補足するに過ぎず、組織像だけから病名がつけるのはなかなか困難なことが多い。
 腫瘍性疾患の場合には、悪性黒色腫、ケラトアカントーマなどの一部を除き、組織像で腫瘍の分類が決定される。
 
 皮膚病変の病理組織検査の意義や必要性については下記の記事を参照のこと。内科の研修医向けに、皮膚科医と病理医が皮膚病理の基本的なことを話してます。
●病理との付き合い方 明日から使える病理の基本【実践編】第7回皮膚 「medicina」43巻8号(2006年8月号)医学書院<--[クリック]

皮膚病変の肉眼所見に用いる用語のまとめ

 皮膚病変の肉眼形態は下記のように記載される。

原発疹(1次性に発する発疹)

斑(macule)
 斑は、色調変化を主とした用語。
 紅斑 erythema、紫斑 purpura、白斑 leukoderma、色素斑 pigmented spot、など色調によって用いる。
丘疹(papula)
 丘疹は、限局性隆起(5mm以下)のこと。
 表皮性丘疹、表皮真皮性丘疹、真皮性丘疹、など隆起の由来によって用いる。
結節(nodule)
 結節は、限局性隆起(5mmより大きい)のこと。
水疱(bulla)、小水疱(vesicle)
 水疱、小水疱は、中に透明な液体の入った嚢胞が隆起してみられるもの。
 角質下水疱、表皮内水疱、表皮下水疱、など水疱の位置によって用いられる。
膿疱(pustule)
 膿瘍は、水疱の内容が膿のものをいう。
嚢腫(cyst)
 嚢胞は、真皮内に生じた空洞のことである。
膨疹(urtica)またはじんま疹
 膨疹は、皮膚の限局性の浮腫のこと。

原発疹

続発疹(原発疹や他の続発疹に引き続いて生じる発疹)

表皮剥離(excoriation)
 掻爬・外傷などにより生じた表皮の小欠損のこと。
びらん(erosion)
 真皮に及ばない表皮の欠損のこと。瘢痕を残さず表皮の再生で修復される。
潰瘍(ulcer)
 真皮以上に達する深い組織欠損のこと。肉芽組織形成で修復される。
膿瘍(abscess)
 真皮または皮下に膿が貯留したもののこと。
亀裂(fissure)
 表皮深層ないし真皮に達する細く深い線状の切れ目のこと。
鱗屑(りんせつ, scale)
 角質が正常より厚くなり、角質が脱落している、あるいは脱落せんとしている状態のこと。
 角質が剥がれる現象を落屑(desquamation)という。
痂皮(crust)
 漿液、膿汁、壊死塊が乾燥固体化したものである。びらんや潰瘍を被う。血痂とは、血液の乾燥固体化したものをいう。
胼胝(べんち, callus)
 角質が限局性に増殖肥厚している状態のこと。
瘢痕(scar)
 組織欠損の治癒後に、線維組織が欠損部を埋め、表面を再生性の表皮がおおった局面のこと。
萎縮(atrophy)
 皮膚全体が菲薄となった状態のこと。陥凹したり、表面が細かいしわ状となることがある。

続発疹

その他の肉眼所見の用語

 原発疹や続発疹が特有の像をとったり、そのいくつかが組み合わさって、ある一定の症状を呈することがある。そういった特有の像や組み合わせを1つの呼称でまとめておくと表現が簡単になって便利である。こうしたことから、診断名としてこうした発疹の呼称を用いることが多い。
 苔癬(たいせん, lichen)、苔癬化(lichenification)、疱疹(herpes)、天疱瘡(pemphigus)、膿痂疹(impetigo)、膿瘡(ecthyma)、ざ瘡(acne)、面皰(めんぽう, comedo)、毛瘡(sycosis)、紅皮症(erythema)、乳頭腫(papilloma)、蠣殻疹(かきがらしん, rupia)、粃糠疹(ひこうしん, pityriasis)、乾癬(かんせん, psoriasis)、脂漏(しろう, seborrhoea)、脱毛症(alopecia)、掻痒症(pruritus)、多形皮膚萎縮症(poikiloderma)、乾皮症(xerosis)、魚鱗癬(ichthyosis)など。

皮膚病変の組織所見に用いる用語のまとめ

 皮膚の組織所見を記載する時の特殊な用語に以下のようなものがある。

角質増殖(過角化)(hyperkeratosis)
 角化層が正常より肥厚した状態のこと。
不全角化(錯角化)(parakeratosis)
 角化層に核が残存した状態のこと。
異常角化(個細胞角化)(dyskeratosis)
 角化層に達する以前の段階で個々に上皮細胞が角化した状態。
表皮肥厚(acanthosis)
 表皮の有棘層の肥厚をアカントーシス(acanthosis)という。
乳頭腫症(papillomatosis)  表皮の上方突出が真皮乳頭を伴って多発して見られ、波打つような状態になること。
海綿状態(spongiosis)
 表皮細胞間の浮腫のこと。細胞間隙が開いて細胞間橋が明確に見える。
棘融解(acntholysis)
 表皮の上皮細胞の接着が傷害され、表皮内で細胞がばらばらに離解した状態。
細胞内浮腫(intracellular edema)
 表皮細胞の内部に水が溜まること。
網状変性(reticular degeneration)
 細胞内浮腫が進行して細胞膜が破れ、残存表皮細胞が網目状に連なり、細胞間には浮腫が見られる状態のこと。
球状変性(ballooning degeneration)
 表皮細胞が変性し、細胞間橋を失って円球状に膨化し、表皮内水疱中に存在すること。
液状変性(hydrophilic degeneration)
 表皮基底細胞の空胞性変性である。表皮基底層から真皮表層に浮腫があって、表皮と真皮の境界が不明瞭となり、時に基底膜が消失する。基底細胞の変性が高度な時には、表皮下裂隙や表皮下水疱が形成される。
水疱(bulla)
 表皮内あるいは表皮下に見られる空洞のこと。小型のものは小水疱(vesicle)と呼ばれる。
表皮内細胞浸潤(exocytosis)
 炎症性の細胞浸潤が、表皮細胞間に侵入した状態を言う。
膿疱(pustule)
 表皮内の好中球の集合巣のこと(表皮内膿瘍)。 微小膿瘍(microabscess)
 表皮内膿瘍の比較的小さなもののこと。表皮内細胞浸潤のひとつの形である。
色素沈着と色素脱失
 表皮基底層のメラニン顆粒の増減による変化である。

急性炎症性皮膚症

急性皮膚炎症

蕁麻疹(じんましん, urticaria):
 発疹が出現してから1から数時間で治まる、かゆみを伴った限局性の皮膚浮腫である。真皮の浮腫と、小血管周囲のリンパ球浸潤が見られる。I型過敏反応である。

湿疹(しっしん, eczema):
 湿疹とは、「痒み(必発)」「点状状態(小水疱、小丘疹、小膿疱などの小さな点状要素よりなる)」「多様性(丘疹、小水疱、膿疱、痂皮、落屑などが同時にあるいは時期を違えて出現する)」を3つ特徴とした皮疹の総称である。
 こうした皮疹を示す病気には多数のものが含まれる。接触皮膚炎、アトピー性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、貨幣状湿疹、ビダール苔癬、自家感作性皮膚炎などがある。
 こうした病気に分類できない場合には、急性湿疹、慢性湿疹と診断される。

 急性湿疹の組織像は、海綿状態とリンパ球主体の表皮内浸潤がみられるのが特徴である。海綿状態が高度になると、小水疱となることがある。真皮表層では小血管の拡張と血管周囲のリンパ球主体の炎症性細胞浸潤がみられる。リンパ球だけでなく、好中球、好酸球、組織球浸潤を伴うこともある。
 慢性湿疹の組織像は、表皮肥厚(アカントーシス)と表皮突起延長が主体であり、これに角質増殖と不全角化加わる。軽度な海綿状態は示すが小水疱はない。真皮表層ではリンパ球の血管周囲性浸潤がみられる。好酸球、組織球浸潤を伴うことがある。

多形紅斑(erythema multifome):
 皮膚や粘膜の重層扁平上皮(表皮)の基底細胞を、細胞傷害性Tリンパ球が攻撃する疾患である。ある種の感染や薬剤に対する過敏性反応である。
 組織像では、表皮基底層に上皮細胞のアポトーシスとリンパ球浸潤がみられる。表皮の基底層が剥離し水疱を形成することがある。
 斑状、丘疹状、水疱状の多彩な肉眼形態をとり、二重の輪に見えるような皮疹(標的状 target lesion)が特徴的である。広範で高度な皮膚障害をおこし重篤な全身疾患となったものをStevens-Johnson症候群と言う。さらに、全身の30%以上に表皮全層性の細胞死がおこることもあり、薬剤性の場合が多く、中毒性表皮壊死症(toxic epidermal necrosis, TEN)と呼ばれる。

多発紅斑の肉眼写真<--[クリック]
多発紅斑(Erythema multiforme)の組織写真がfigure.12にあります(その他の病気の解説・写真もあります)<--[クリック]

慢性炎症性皮膚症

慢性皮膚炎症

乾癬(psoriasis):
 多因子が関連する免疫疾患である。遺伝因子に種々の環境因子が加わって発症すると考えられている。
 表皮の肥厚、乳頭部の上昇、不全角化(錯角化)、角化層内微小膿瘍、顆粒層の消失、真皮表層の軽度なリンパ球浸潤、がみられる。乳頭部の先の表皮は薄くなるため、鱗屑(角化層)を剥がすと点状に出血する(アウスピッツ Auspitz 現象)。

尋常性乾癬 尋常性乾癬 尋常性乾癬

扁平苔癬(lichen planus):
 原因不明のものが多いが、薬剤性におこることが知られている。細胞傷害性Tリンパ球が関与する免疫反応でおこると考えられている。
 表皮肥厚、過角化、顆粒層の肥厚、表皮直下(真皮上層)に帯状の高度なリンパ球浸潤がみられる。液状変性がみられることがあるが、水疱形成はない。口腔粘膜に良くできる。

扁平苔癬

感染性皮膚症

 細菌感染によって角質下膿疱ができた皮膚病変を膿痂疹(impetigo)と呼ぶ。
 真菌感染には、白癬(tinea)やアスペルギルス感染などがある。
 ウィルス感染:
 尋常性疣贅(verruca vulgaris):
 Human Papilloma Virus(HPV)感染。表皮が乳頭状に増生し、錯過角化、核周囲ハロー、顆粒層の粗い顆粒がみられる。悪性転化しない。
 伝染性軟属腫(molliusumus contagiosum):
 molluscipox virusの感染である。"みずいぼ"と呼ばれる。2-3mmまでの小結節病変を作る。接触感染する。周囲の皮膚に散布されて病変が多発する。

水疱性疾患

水疱

尋常性天疱瘡(pemphigus vulgaris):
 基底膜直上の水疱。デスモゾームの蛋白質に対するIgG自己抗体。
落葉状天疱瘡(pemphigus foliaceus):
 角化層下の水疱。デスモゾームの蛋白質に対するIgG自己抗体。
類天疱瘡(bullous pemphigoid):
 表皮下水疱。表皮の基底膜にIgG自己抗体が沈着する。
類天疱瘡 類天疱瘡

ジューリング疱疹性皮膚炎(dermatitis herpetiformis Duhring):
 表皮下水疱。表皮乳頭にIgA自己抗体が沈着する。80%の症例は腸のセリアック病を合併する(腸のセリアック病の数%しか疱疹状皮膚炎を発症しない)。セリアック病は、グルテンを含む食事(小麦など)に対して免疫反応がおこり、腸管に慢性炎症がおこる疾患であり、グルテン除去食で治療される。

表皮性の良性腫瘍、前癌病変

脂漏性角化症(seborrheic keratosis):
 良性腫瘍である。表皮が乳頭状、網目状に増殖する。

脂漏性角化症 脂漏性角化症 脂漏性角化症 脂漏性角化症

日光角化症(solar keratosis)(光線角化症(actinic keratosis)、老人性角化症(senile keratosis)):
 前癌病変。皮膚露出部におこる。表皮の特に基底細胞に異型がある(だが、癌と断定できるほどではない)。多彩な異型病変を呈する(一様でない錯過角化、表皮の肥厚と菲薄化の混在、蕾状の釘脚伸長、正常皮膚との境界部に斜めに走る境界の存在、毛孔・汗孔部には正常構造が保たれる、などが観察される)。

表皮性悪性上皮性腫瘍

Bowen病(Bowen disease):
 表皮内扁平上皮癌(squamous cell carcinoma in situ)のこと。明確な核異型をもつ腫瘍細胞の表皮内増殖よりなる。

ボーエン病 ボーエン病

浸潤性扁平上皮癌:
 真皮に浸潤する扁平上皮癌。皮膚では有棘細胞癌とも呼ばれる。

基底細胞癌(basal cell carcinoma):
 細胞質が少ない異型上皮細胞が大小の充実性集塊を作って、真皮内に増殖する。表面は非腫瘍性の表皮がおおう。腫瘍細胞の充実性集塊の辺縁では核が縦に並ぶ傾向がある。メラノサイトが共存し、腫瘍細胞内にメラニン顆粒が見られることがある。
 緩徐に進行し、めったに転移しない。

基底細胞癌 基底細胞癌

付属器腫瘍

 毛包・皮脂腺分化を示す腫瘍や、汗腺(エクリン汗腺・アポクリン汗腺)分化を示す腫瘍が皮膚で見られる。

乳房外パジェット病(extramammary Paget disease):
 アポクリン分化を示す腺癌細胞が、表皮内(特に深層)を這って進展して病変をつくる。表皮内に十分広がった後に真皮に浸潤増殖する悪性腫瘍。腺癌なので、粘液を持つことや免疫染色でCEA(+)となることなどで、扁平上皮癌と鑑別される。

パジェット病

メラノサイトの増殖

単純性黒子(lentigo simplex):
 黒色斑を形成する病変。表皮基底層の上皮細胞にメラニン顆粒が多いだけである。

単純性黒子 単純性黒子

母斑細胞性母斑(nevocellular nevus, melanocytic nevus):
 良性腫瘍。メラノサイト由来の核異型の乏しい細胞(母斑細胞と呼ばれる)が、真皮内や表皮の深層に増殖する。サイトケラチン(-), ビメンチン(+), S100(+)である。

母斑細胞性母斑 母斑細胞性母斑

悪性黒色腫(malignant melanoma):
メラノサイト由来の悪性腫瘍である。メラニン顆粒を持つ大型異型細胞の増殖がみられる。免疫染色では、サイトケラチン(-), ビメンチン(+), S100(+), melan A(MART-1)(+)である。
 生検はなるべく避ける。肉眼的に皮膚科医(臨床医)が診断する必要がある腫瘍である。

核異型の高度な異型細胞が、表皮基底層を中心に増殖している。
悪性黒色腫 悪性黒色腫

核異型の高度な異型細胞が、真皮内に浸潤している。メラニン顆粒を持つ。
悪性黒色腫 悪性黒色腫

悪性リンパ腫

菌状息肉症(mycosis fungoides): 皮膚発生のTリンパ球性リンパ腫。

成人T細胞白血病/リンパ腫(adult T-cell leukemia/lymphoma): HILV感染が関与したリンパ腫。

など、皮膚発生のリンパ腫が何種類か知られている(悪性リンパ腫の項目で説明される)。

[2020.3]


[戻る]

  

inserted by FC2 system